9月のゼミ体験参加者募集
現代朗読協会では「こう読まねばならない」「こ […]
自分に嘘をつかない
基本は共感とマインドフルネス
音声・文章コンテンツの自作・発表をサポート
現代朗読協会では「こう読まねばならない」「こ […]
ここに掲示するテキストの著作権は水城ゆうに帰属しますが、朗読(音読)についての著作使用権は解放します。朗読会、朗読ライブ、朗読教室、その他音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、イベント内容についてひとことでかまいませんので、メールやコメントなどでお知らせいただけると、著作権者にとって望外の喜びとなります。
「水色文庫」の作品は電子ブック『祈る人』シリーズとしてアマゾンKindleから出版されています。こちらもご利用ください。
水城ゆうによる現代朗読ゼミやワークショップは、こちら〈現代朗読協会〉で開催されています。
◎世界を切りとる
「砂漠の少年」「Milagro」「Kalimba Man」「Thank You So Much」「リサ」「農夫」「この河」「Even If You Are My Enemy」「Him」「Depth」「Swallowed in the Sea」「Bangkok」「An Octpus」「コンテナ」「待つ」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「ビッグウェーブ・サーファー」
◎日常
「Lookin’ UP」「Bird Song」「温室」「初霜」「猫」「Time After Time」「Cat’s Christmas」「水族館」「眠らない男(人)」「Solar」「Love Letters」「じぃは今日も山に行く」「サンタの調律師」「人形」「プール」「クリスマス・プレゼント」「Something Left Unsaid」「Start」「親知らず」「ひとり、秋の海を見る」「京都という街へのタイムスリップ」「とぼとぼと」「先生への手紙」「Solitary Woman」「Come Rain Or Come Shine」「Here’s That Rainy Day」「締切り」「Dancin’ On The Door」「おばあちゃん」「High Life」「You Gatta Mail」「Morning Plain」「五年ぶりの電話」「Someday My Prince Will Come」「爪を切る」「Heaven Can Wait」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「ダイエット」「妻のいない日、ひとり料理を作る」「きみを待つぼくが気にかけること」「ラジオ局」「I’m Grad There Is You」「At the Platform」「Soon」「左義長」「A Flying Bird in the Dark」「単独行」「おまえの夏休みの宿題に父は没頭する」「豆まき」「コーヒー屋の猫」「自己同一性拡散現象」「ラジオを聴きながら」「蛍」「Firefly」「The Woman of Tea」「今朝の蜜蜂は羽音低く飛ぶ」「薪を割る女、蜜蜂」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「世界が眠るとき、私は目覚める」「かそけき虫の音に耳をすます」「編む人」「悲しみの壁に希望を探す」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「遠くからやってきた波に乗るということ」「夏の思い出」「肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ」
◎メッセージ
「祈る人」「To the One Who Pray」「気分をよくして」「先生への手紙」「Fourteen」「雨のなかを」「古い友人への手紙」「A Red Flower」「眠らない男(人)」「雨の女」「I Am Foods」「祈り」「The Green Hours」「You Gatta Mail」「僕はスポーツ」「先生への手紙」「When It Rains」「Ranmaru Blues」「とぼとぼと」「ダイエット」「Miracle of the Fishes」「あめのうみ」「安全第一」「Ba-Lue Bolivar Ba-Lues-Are」「Why Do You Pass Me By」「Majisuka Police」「An Old Snow Woman」「The Sound of Forest」「The Night Has a Thousand Eyes」「Cat Plane」「青い空、白い雲」「Blue Sky, White Clouds」「朝はきらいだ」「Airplane」「A Flying Bird in the Dark」「捨てる」「共同存在現象」「しょぼんでんしゃ」「人像(ヒトガタ)」「歌う人へ」「亀」「また君は恋に堕落している」「死に向かう詩情」「自転車をこぐ」「飛んでいたころ」「身体のなかを蝶が飛ぶ」「ふとんたたき」「おんがくでんしゃ」「コップのなかのあなた」「ゼータ関数の非自明なゼロ点はすべて一直線上にある」「イカ墨はえらい」「祝祭の歌」「帰り道」「On the Way Home」「繭世界」「朗読者」「舞踏病の女」「移行」「夜と朝をこえて」「待つ」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「悲しみの壁に希望を探す」「マングローブのなかで」「クラリネット」
◎不思議な話
「Three Views of a Secret」「Death Flower」「How Deep Is the Ocean」「ある夏の日のレポーター」「眠らない男(人)」「失われし街」「洗濯女」「タイム・トラベラー」「Smile of You」「手帳」「Depth」「Lonely Girl」「The Pursuit of the Woman with the Featherd Hat」「Oni」「階段」「ギターを弾く少年」「ふたつの夢「ひとつめの夢」」「ふたつの夢「ふたつめの夢」」「木漏れ日のなかで」「暗く長い夜、私たちは身を寄せあって朝を待つ」「夏の思い出」「ボトム・クオークの湯川結合で見えてきたタイムトラベルの可能性」
子どものころの七つの話
「一 風呂の焚きつけの薪の話」
「二 川に流された妹の話」
「三 父と釣りに出かけた話」
「四 ミミズの話」
「五 蜂に刺された話」
「六 夏の話」
「七 砂場の糞の話」
「見えますか、私?」「きのこ女」「夜と朝をこえて」「ベニテングタケ子の好奇心」「世界が眠るとき、私は目覚める」「ロード・オブ・ザ・カッパン」「ファラオの墓の秘密の間」「イベントホライズン」
◎思考
「砂時計」「講演」「The Underground」「コップのなかのあなた」
◎音楽
「Three Views of a Secret」「Night Passage」「Lookin’ UP」「Solar」「How Deep Is the Ocean」「サンタの調律師」「Blue Monk」「雪原の音」「Come Rain Or Come Shine」「Here’s That Rainy Day」「セカンドステージ」「アンリ・マティスの七枚の音(1)」「アンリ・マティスの七枚の音(2)」「The Underground」「ギターを弾く少年」
◎男と女
「Milagro」「Night Passage」「彼女が神様だった頃」「Lookin’ UP」「移動祝祭日」「How Deep Is the Ocean」「Thank You So Much」「Cat’s Christmas」
「Nearness of You」「眠らない男(人)」「雨の女」「Blue Monk」「航跡」「沖へ」「Smile of You」「夏の終わり、遊覧船に乗る」「The Green Hours」「嵐の中の温泉」「ねむるきみと霧の中を通って」「セカンドステージ」「It Might As Well Be Spring」「I’m Grad There Is You」「Oni」「The Woman of Tea」「ベニテングタケ子の好奇心」「夏の思い出」
◎シナリオ
「初恋」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(1)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(2)」「沈黙の朗読——記憶が光速を超えるとき(3)」「特殊相対性の女(1)」「特殊相対性の女(2)」「特殊相対性の女(3)」「祈り」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(1)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(2)」「群読シナリオ「前略・な・だ・早々」(3)」「群読シナリオ「Kenji」(1)」「群読シナリオ「Kenji」(2)」「群読シナリオ「Kenji」(3)」「ギターを弾く少年」
◎未来
「Night Passage」「Blue Monk」「The Burning World」「The Sound of Forest」「きみは星々の声を聞いている」「かなたから来てここにたどり着く」「アルチュール」「南へ」「ボトム・クオークの湯川結合で見えてきたタイムトラベルの可能性」
◎海とヨット
「迷信」「彼女が神様だった頃」「移動祝祭日」「Thank You So Much」「ぼくらは悲しみを取りかえる」「彼女の仕事」「嵐が来る日、ぼくたちはつどう」「航跡」「沖へ」「夜の音」「夜に聞くデッキの雨の音」「梅雨の合間に聴くマーチ」「コンテナ」「マングローブのなかで」「遠くからやってきた波に乗るということ」「落雷」「ビッグウェーブ・サーファー」「肌にあたる海水の冷たさを思い唇がほころぶ」
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ベニテングタケ子の好奇心
水城ゆう
1
あたしはおそれているのです、あの子のことを。たしかにあたしの娘であるからには、次々と男をとっかえひっかえ渡りあるく性癖も理解できようというものですが、それにしてもあの子にはどこか、あたしとは決定的にちがうところがあります。
もちろんそれは「ベニテングタケ」のせいにちがいありません。
あたしが生まれたミジュリシュカヤフスタニントン村にはふるくから男たちだけのあいだにつたわる奇妙な風習があって、それはベニテングタケが採れるとそれを三日間天日干しにしたあと、こまかく砕き、アルコール度数九八パーセントのアクアヴィットにつけこんで一年おいたベニテングタケ酒を、祭りのときに回し飲みするというものです。男たちはアルコールとベニテングタケの幻覚成分で神様と交信し、翌年の収穫を占うというのですが、実際にはただいい気分になって女たちとまぐわうにすぎません。
聞いたところでは男の絶頂は女のそれに比べて十分の一とか二十分の一しかよいものではないらしいではありませんか。なんとも気の毒ですが、ベニテングタケ酒を飲むと全身がものすごく敏感になって女とおなじくらいあれがよいものになるというのです。
ならば、女があれのときにベニテングタケ酒を飲んだらどうなるんでしょう。
あたしはそのときまだ十九で好奇心のかたまりでしたし、男といたすことについてもいまほど慣れきってはいませんでした。その日のあたしの相手はあたしよりひとつ年下の、まだそれまでに二度しか交わりをもったことのないハタケシメジ夫でした。彼が部屋にしのんでくる夜中の約束の時刻のすこし前、あたしは父や祖父がベニテングタケ酒を大切にしまってある地下室にしのびこみました。地下室の奥の、鍵がかかる棚にベニテングタケ酒がしまってあるのですが、あたしはその鍵がどこにあるのか知っていたのです。
あたしは瓶からベニテングタケ酒をひと口、ふた口飲み、急いで部屋にもどりました。あたしの身体は火がついたように熱くなり、あそこも心臓がそこに移動したのではないかと思えるほどドキンドキンと脈打ってうずいていました。
あとで思えば、そのときにあの子があたしのお腹に宿ったのです。
2
私のことをまるでいまにも重大犯罪を犯す者であるかのように母が警戒したまなざしで見ていることは知っている。実際、私が関係を持った相手の名前も素性もそのほとんどを母は把握しているはずだ。しかし、そのこと自体は犯罪とは関係がない。私自身、犯罪をおかすつもりなど毛頭ないのだ。
しかし、私には、好奇心、がある。
どうしようもなく押さえきれない、肥大しきった好奇心。
もし男のふくれあがってベニテングタケ化したあそこを切りとって食べたらどんな味がするのであろうか。
私が寝た男は、全員、あそこがベニテングタケ化する。
3
最初に気づいたのは二年前のことでした。ということは、あの子は十七だったということです。
そして今日、仕事が早めに終わって、いつもより早い時間に家にもどってみると、あの日とおなじように気配がありました。あの子だけでなく、だれか来ている気配があったのです。あたしはとっさに息をひそめ、そっと家のなかにはいりました。
あの子の部屋から物音と人の声が聞こえてきました。そう、あたしにはすっかりなじみのある、男と女のひめやかな声と気配。最初のときも、まだ十七のあの子が自分の部屋に男を連れこみ、コトにおよんでいることを、あたしは意外に冷静に受けとめていました。なにしろ、あたしもそのくらいの年ごろにはすでに何人か知っていたからです。ましてや時代が時代ですもの、十七のあの子は遅いくらいです。そして今日、それを当然のように受けとめながらも、あたしはどうしようか、身を持てあまして、なんとなくぼんやりと居間にたたずんでおりました。あの子の部屋からは男女の声が高まったり低まったりしながら、断続的に聞こえてきます。いつもより早い時間に帰ってきてしまった自分を後悔しはじめていました。そこであたしは、いったん家を出ようと思って、玄関に引き返そうとしました。
そのときです。
ひときわ声が高まったかと思うと、家具がぶつかる音がし、さらに声が異常なほどに高まりました。それはまるで、死の恐怖に接した人間がいまわの際に発するような、恐怖の叫びに似たようなすさまじい声でした。あの子の声ではなく、あきらかに男のほうの声です。
あたしはびっくりして立ちすくみました。それはあたしですら聞いたこともない、快楽を極めたときの男の絶頂の声だったのです。
4
私が生まれたミジュリシュカヤフスタニントン村の風習では、男たちはベニテングタケ酒を飲んで女とまじわり、翌年の収穫をうらなうという。ベニテングタケ酒を接種した上での交接は、男たちにも神に接近する至福をもたらし、未来予兆ができるという話だが、真偽のほどは疑わしい。男たちが大きな快楽を手にいれるためにそのような儀式を捏造したのではないかと、私は疑っている。
しかし、私と合体した男は間違いなく、本物の至福を得ることができる。私の身体はベニテングタケ酒を凌駕する快感を男に注ぎこみ、ときには発狂にいたる者すらある。
たいていの場合、快感のあまり、最後の瞬間に接合したまま男たちは失神する。しばらくたつと、ようやく力を失って私のなかからどろりと抜けだすのだが、それはベニテングタケそのものに変化している。失神から回復すると、男たちはそれを股間に抱えたまま私のもとを去っていくのだが、その後それがどうなったのかは私にはわからない。その後、ふたたび私のもとにあらわれた男はひとりもいないし、だれひとり連絡がつかなくなってしまうからだ。
私のなかから現れたベニテングタケは、見るからに毒々しくおいしそうだ。私はそれをしばしば口にふくんでみたが、それは私と男の体液の味しかしなかった。しかし、表面ではなく、それそのものを味わってみたとき、どのような味がするのか。
私の好奇心はふくらみつづけるばかりだ。
5
そのあとすぐにあの子の部屋のドアが開きました。あたしは家を出るタイミングをうしなってしまいました。
ドアから出てきたのは、あの子ではなく、ひとりの男でした。彼はなにも身にまとっていませんでした。だからあたしは見てしまったのです。男の股間からニュッと生え、丸く傘を張って毒々しく色づいたベニテングタケを。
それはあきらかに男性の肉体ではなく、完全にキン類(キン類のキンはばい菌の菌ですお間違えなく)のそれでした。二〇センチもあろうかという茎の部分はほとんど真っ白、丸く張りだした傘は基本色が朱色がかった赤、そして白いイボが点在しています。
娘を懐妊したとき、あたしは心配になっていろいろと調べたから知っているんですが、毒きのことされるベニテングタケの毒性はおもにイボテン酸、ムッシモール、ムスカリンなどで、じつはそう強い毒性ではありません。イボテン酸などは大変おいしい旨味成分なので、食べればとてもおいしいきのこなのです。たくさん食べれば中毒症状を起こすこともありますが。
だから少々なら食べられるのです。そしていまこの男の股間に生えたきのこも、ぬらぬらと男女の体液にまみれ、いかにも食べてくれと訴えているかのようでした。
6
私は母にそれを切除し、ふたりで食べてみようと提案した。
7
あたしはキッチンから包丁を持ってきました。これを切りとって食べようと、娘から提案されたからです。それはとても魅力的な提案でした。それを実行することで、あたしと娘とのきずなも深くなるはずでした。
しかし、このベニテングタケを切り取ることは、はたしてベニテングタケを切ることになるのか、それとも男の肉体の一部を切り取ることになるのか。
あたしがこれを切り取ると、男はどうなるのか。
そして、いままで娘と関係した数々の男たちは、いったいどうなってしまったのか。いまどこでなにをしているのか。
8
私は包丁を手にしたまま、おびえた視線を私に向けている母を見た。
母は私の目に、強大な好奇心を見ているはずだ。
私はかんがえている。この男のベニテングタケを食することで、私はいったいどうなるのだろう。ひょっとして私の生命が受胎したその瞬間からはじまっていた巨大なメタモルフォーゼの最終段階に到達するのではないか。そのとき、私はいったい、何者になるのだろう。
きのこの女王かもしれない。
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