現代朗読協会ではこれまで、朗読者がひとりでテキストを使っておこなう表現――いわゆる朗読――のほかにも、詩や群読、生の音楽演奏、歌唱、そして即興的パフォーマンスも数多くおこなってきました。
そのなかでひとつの方法論の到達点として立ち現れたのが「ポエティック・インプロヴィゼーション」という考え方です。
ポエトリー・リーディングというものが古くから存在していますが、それとの差異を示しておきましょう。
- 詩のみでなくストーリーテキストなども素材として用いる。詩、小説、随筆といったテキストの差別化を考えない。
- 共演者(たとえば音楽家)は従来、表現主体である朗読に対してあくまで「従」「伴奏」といった位置づけだったが、対等の表現主体として扱う。
- 複数(ときに単独である場合もあるが)の表現主体がたがいに即興的にコミュニケーション(注:言語によるものではない)を取ることで、重層的な表現伝達を行なう。
- 即興表現は表現者同士のコミュニケーションによってのみならず、観客、環境、時間などによっても刺激を受け、変化する。
朗読者は共演者、観客、照明や音響といった空間的条件、時間的経過といったものの変化に反応し、即興的に表現を変化させていきます。また、その変化は共演者にフィードバックされ、さらに変化が生まれます。そういった変化とレスポンスが時間軸のなかで螺旋状に展開していくことに特徴があります。
従来の演劇や朗読のように、あらかじめ入念なリハーサルをおこない、すべての表現について従前に準備してから場に臨む、というものとは対極にある、あたらしい手法です。
この方法を身につけることで、朗読者は柔軟で、変化にとんだ、真の意味で時間/空間表現である朗読表現を、観客と共有できるようになるのです。
[表現構成]
- 詩、あるいは文章を用いた朗読表現の一種。
- 基本的に朗読者と共演者1名で表現が構成される。
- 共演者が複数名になる場合もある。あるいは、朗読者単独の場合もある。
- 共演者は、朗読者、音楽家、ダンサー、あるいは非人間(芸術作品や動植物、日常的音響など)など、あらゆる可能性を選択できる。
[めざすもの]
- 詩、あるいは文章を音読する朗読表現を構成するもののなかで、受取り手(リスナー/観客)がすくい取るものはとかく「意味/ストーリー」に偏りがちになる。
- 意味/ストーリーは言語情報であり、活字でも伝達可能なものである。朗読表現でめざすべき主要なものではありえない。
- 意味/ストーリーの周辺(あるいは内部)に潜在している朗読表現でしか伝ええないものをより意識し、多層的・深層的な情動を伝えることを朗読者はめざすべき。
- 意味/ストーリーではないものとはなにか。音響、環境、視覚、表現者の存在そのもの、そういった感覚で表現を構成するための方法として、ポエティック・インプロヴィゼーションは有効である。
- 時は動いてとどまらず、人(伝える側も伝えられる側も)の感覚・感情・身体条件も変化し、環境も移りかわる。そのなかで、あらかじめ準備された固定的なものではなく、柔軟に変化し、即興的に表現していけるための感受性と身体を作る。それは即興ミュージシャンやフリーダンサーの身体性に近いといえる。
- これらのことについての正しい認識が前提。
[方法]
- テキストを「素材」として、自分のなかにあるあらゆる表現の可能性(引出し)を引きだすための「取っ手」を探す。
- 取っ手探しのツールとして、音、音楽、動き、姿勢などの仕掛けが使われる。
- 表現の引出しを見つけたら、それを自在に操る・反応させるための訓練を加える。変化にたいする反応、反射、判断の力をつけるためのプラクティスが数多く用意されている。
[内容]
- ポエティック・インプロヴィゼーションについての知識、方法についての講義。
- 通常朗読の伝わらなさを認識する。意味、ストーリーが邪魔をしているもの。意味を変形させたときに伝わるもの。これらをプラクティスを通して認識する。
- 音に反応できる身体を作る。
- ディープリスニング。
- インプロビゼーション実践。
- 全員でひとつの作品を作る。
(現代朗読協会 代表 水城雄)