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子どものころの七つの話「四 ミミズの話」
作・水城ゆう
私がもうすこし大きくなって、父とではなくひとりで釣りにでかけるようになったころの話だ。たぶん小学校の高学年、五年生か六年生だったと思う。
父と釣りに行くときはそのへんの畑をほじくりかえしてとったドバミミズを持って行ったが、ひとりで行くときは釣果をあげるためにミミズの品質にこだわった。私の釣りのねらいは鮒で、近所の河川や沼にはヘラブナではなくマブナしかいなかった。そしてマブナはシマミミズが最高の釣り餌なのだった。
私はシマミミズが大量にとれる場所を知っていた。それは祖父が経営する自動車修理工場の裏手にある牛舎の脇で、牛の糞を堆肥にするために大量に積みあげてあった。かなりの臭《にお》いだったが(よく近所から苦情が出なかったものだ。いや出ていたのかもしれない)、臭《くさ》さもなんのその、良質の釣り餌確保のためなら牛の糞の臭《にお》いなどなんでもなかった。
牛糞の山を少し掘ると、シマミミズがぎっしりとからみあうようにうごめいていて、ものの数分で持参した味の素の空き缶がいっぱいになった。つやつやと太った最高のシマミミズで、私はそれで何百匹マブナを釣ったことか知れない。
中学三年生くらいのころ、授業が退屈で、体育の時間にサボって学校を抜けだしたことがある。その際、だれもいなくなった教室の女生徒の机のなかから弁当箱を盗みだして、学校の外で食べてしまった。まだ昼休み前の時間だったのだ。
空っぽになった弁当箱に、私はなにを思ったのか、牛舎の脇に行き、例のシマミミズをたくさん詰めこんで蓋をし、ハンカチでしっかりとくるんで女生徒の机のなかにもどしておいた。
そのあとどうなったか。いまだと完全な犯罪行為であり(当時でもそうか)、私は少年院送りになっていたことだろう。